2023年10月1日から施行される”インボイス制度”。
私も駆け出しカメラマンながらフリーランスとして活動しており、インボイス制度導入によって世間が混乱している様子や対応に悩んでいる企業など”歪”を肌で感じているところです。
私は個人相手に仕事してるカメラマンだから関係なくってよ…?
今回はインボイス制度がフリー個人事業主のカメラマンに与える影響について、そしてフリーランス・個人事業主のカメラマンはどのように対応をしていくべきなのか?
もちろん、私は経理のエキスパートではありませんが現場にいて感じる等身大の意見として、書き記しておきたいと思います。
※また、当記事を参考にした等によって生じた損害については一切責任を負いかねますので、あくまで自己責任でお願いします。
【表側】適格請求書(インボイス)とは分かりやすく解説
出典:unsplash
売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
具体的には、現行の「区分記載請求書」に「登録番号」、「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。
出典:国税庁
インボイス制度は、簡単に説明すると適用税率・税額の記載が義務付けられた請求書を使って、消費税を正確に計算したのち適切な納税を促すための制度です。
昨今の副業ブームで正しく納税していないフリーランスは相当数いると言われていますが、適正に徴収するための仕組みとなっています。
世間は増税・増税がトレンドになっていますが、要するに末端事業者からしっかり徴収するための政策になっているんですね。
これ以上、私の身ぐるみ持っていく気…!?
元々、消費税は消費者から預かった10%(8%)を、販売店に支払い、次に販売店は卸先に10%を収めることになります。
最終的に、販売店-卸先が国に10%(8%)納税することで、全ての人が10%(8%)を負担することになる、というもの。
では実際に、インボイスが導入されると現場で働くカメラマンにとってどのような影響があるか見てみましょう。
・免税事業者もインボイス導入すると従来、売上になっていた消費税10%(8%)を納税しないといけない
・売り手の取引先から発行された適格請求書を保存している取引のみ、仕入税額控除の対象になる
・売り手の取引先がインボイス制度を導入していないと仕入税額控除ができず、相手方の納税10%分まで買い手側が負担することになる
つまり、インボイス制度を導入している個人・会社のみがクリーンな存在として認識されるようになり、売上1000万円以下の免税事業者はこれまで消費税の納税義務がなかったところから一気に納税義務を負うことになります。
反面、発行する領収書に事業者番号が残ることから、税務調査の負担が軽減されるなどのメリットはあります。
このあたりは、次章で詳しくご紹介します。
【裏側】なぜ適格請求書(インボイス)は導入されるのか?
出典:unsplash
そもそも、インボイス制度は財務省・主税局が作った法案で、岸田総理率いる内閣が令和4年12月23日に閣議決定しました。
令和5年10月1日から施行されるわけですが、このインボイス制度によって”年間2480億円”の税収が増えると言われています。
その使い道も気になるところですが、この制度は「取引の正確な消費税額と消費税率を把握すること」が名目になっていますが、令和元年に導入された軽減税率(テイクアウト8%、店内では10%)を補填することが目的です。
ですが矛盾点も多く、
・軽減税率の複雑な税制にさらにインボイスでもっと複雑になった
・円安や経済低迷で物価高
・インボイスで税収として年間2480億円を確保するために、民間コストは毎月3400億円かかると言われている
軽減税率(10%・8%)の仕分けのほかに、相手がインボイス登録しているかによって仕入れ控除額を変えるとなるとかなりの事務コストがかかってしまいます。
また、ギリギリで生活してる個人事業主が大ダメージを受けるため、廃業してしまう事業主も多く出るでしょう。
もっとも、矛盾を感じるところは「年間2480億円を確保するために、民間コストは毎月3400億円かかる」という点。
これは、事務作業員の残業コスト、新たな事務職員の確保、インボイス対応のシステムウェア導入でこのくらいかかるという統計があります。
まるで、各地の大名が力を付けないように大金をかけて上京する”参勤交代”みたいな制度で、小さな大名やその下にいる武士は幕府に参上するためだけに嗜好品を売り払い、最終的には住民から搾り取ってギリギリの生活を送ることになるのではないでしょうか。
インボイス制度がフリーランス・個人事業主のカメラマンに与える影響
出典:unsplash
ここからはフリーランス・個人事業主として活動しているカメラマンにとってどのような懸念があるのか、大きく影響するポイントを5つご紹介します。
①事務処理の複雑さ
フリーランス・個人事業主としてカメラマンとして活動している方は、インボイス制度を導入することによってレシート・領収書・納品書・請求書の発行がとても複雑になります。
・登録番号や税率ごとに区分した合計金額
・消費税額
・適用税率
上記のように詳細な記載が必要になるため、システムで領収書を発行している場合は、改修やリプレイスを行う必要があります。
私は手書き領収だから、安心なの♪
手書き領収だからと安心はできず、税率ごとに区分した合計金額・消費税額・適用税率を毎回、計算して記入する必要があるでしょう。
毎回は、負担が大きいのでシステム導入しようと思うとそれに見合った支出が増えるため、とても悩ましいところ。
ちなみに、手書き領収書に登録番号を押印するため、ハンコ業界では特需が起こっているようです。
②インボイス登録で収入減が予測できる
私自身、個人のお客様相手の取引が多いですが、中には企業から委託を受けて撮影する場合があります。
頻度としては多くないわけですが、ここで企業側は当然インボイス登録していますので、委託先である自分に対するインボイス登録のお願いをされることがあります。
当然、委託する企業側としては私がインボイス未登録だと、仕入控除ができなくなるため当然の話し。
しかし、受注する個人カメラマンは、免税事業者であることが多いためインボイス登録を躊躇する人が多いのには理由があります。
例えば…
・年間売上500万円(9割以上が個人対象の売上、委託売上はうち30万円)
・インボイス未登録
このようなケースの場合、委託売上は30万円しかないのにインボイス登録してしまうと、これまで免税されていた消費税は単純計算で年間売上500万円の10%を納税する義務が生じます。
すると、50万円(売上500万×消費税10%)の消費税納税義務が発生することになり、年間売上は450万円に。
一方、委託売上は少ないのでたった30万円。この場合は委託を請け負わずに、インボイス登録しなければ年間売上は470万円になります。(年間売上500万円-委託売上30万円)
実際には原材料費や経費をここから差し引くわけですが、写真館のように写真商品を多く制作しないフォトグラファーの場合、原材料費はほとんどかかりません。
長い目で見てこれから全ての事業者が登録することが標準になる未来であれば、いずれは導入する必要があるわけですが目先の収入減が見えてしまうと、途端に躊躇したくなるのが心情ではないでしょうか。
③売上高1000万円以下の免税事業者の税負担増
インボイス制度はそもそも免税事業者から徴収するための制度。
年間売上1000万円以下の事業者は、消費税10%を売上として処理し、納税する必要はないというこれまでの恩恵は完全に排除されます。
そもそも免税事業者とは、
・個人事業主は開業から2年間は売上高にかかわらず免税事業者
・年間売上高1000万円以下は免税事業者
・資本金1000万円未満で設立された法人の創業から2年間
このような制度があり、これ以外は課税事業者となります。
十分な売上があれば個人事業主の場合でも、インボイス導入を検討できますがそもそも生活ギリギリの方はインボイス導入という選択肢はほぼありません。
自分で自分の首をしめることになるからですね…!?
これによって廃業する零細企業や法人1期目の会社、そして個人事業主が増えることが予想されます。
この影響で伝統工芸品の職人、WEBデザイナー、カメラマン、動画編集者等のクリエイターなど、これまで会社に発注すると高いので安価で請け負ってくれるフリーランスに発注していた企業側にもその影響は伝播するでしょう。
委託や企業案件を多く取り扱っているカメラマンにとってインボイス未登録は、仕事を受注できなくなってしまうという結果を招いてしまうため渋々、登録する方も多いのではないでしょうか。
しかし、売上高が少なくなってしまうことは必至なので、案件を増やすまたは値上げ交渉するなど何らかの対応が必要になります。
④信用情報の低下
インボイス制度への事業者登録が社会的な信用・信頼の証になっていくと推測されます。
売上の多くない個人事業主カメラマンの方は売上の隠蔽?的なことって、一部ではあると思いますが日常的にしている方がいるのではないでしょうか。
特に確定申告を白色で申告している方はざっくりとした勘定科目でしか申請しないため、その中に本来なら不必要な経費が入っていたり、現金のみの手渡し報酬は売り上げにカウントされていなかったりします。
個人事業主に税務調査が入ることは企業に比べて圧倒的に少ないですし、そもそもそういう制度になっているので隠れ蓑はたくさんあるわけですね。
しかし、真面目にインボイス登録しているカメラマンは、
・しっかり納税しているクリーンなカメラマン
・仕事を依頼しやすいカメラマン
・カメラマン-企業間のオンライン上での請求書、納品書等の発送業務を改善しやすい
もちろん、発注側の企業と強い信頼関係を持っている場合はこの限りではないと思いますが、取引する企業側から見るとこのようなイメージを抱くので、替えのきく撮影であれば優先的に仕事をもらいやすい状況になります。
⑤撮影ギャラの減額
全国にはサラリーマン、事業者、個人事業主、副業といった形態のカメラマンが存在します。
ここ数年でフリーの副業カメラマンも増えていると聞きますが、個人を対象とした家族・ブライダル・七五三・成人式のような記念撮影フォトグラファー人員は不足しています。
フォトグラファーを多く抱える企業にとっても人員確保は必須であり、インボイス登録していないから全て切ります!なんてことはなかなか言えない状況にあると言います。
インボイス登録は強制しないから、ギャラちょっと下げて良い??
企業側としてはカメラマンは確保しておきたいけど、でも代わりに消費税10%を企業が肩代わりするのは納得できない…
そうなった場合、落としどころとして撮影単価から2%を差し引いた額での交渉が行われることがあります。
なぜ、2%と思われる方もいるかもしれませんが、これはインボイス制度導入の経過措置として取引相手がインボイス登録していなくても、令和8年10月1日までは80%を仕入控除その後、令和11年10月1日までは50%を仕入控除できるようになります。
出典:国税庁
20%を割引するんじゃなくて、2%なの?
仕入控除とは、税抜き単価に対してかかってくる消費税10%(8%)に対して2重課税をしないように単価のみに対して課税するというもの。
例えば、
・企業-個人カメラマン間で元々、決めていた単価は「10000円(税抜)」
この場合、これまで企業は個人カメラマンに対して「11000円(税込)」を支払うことになっていますが、個人カメラマンがインボイス登録していないと消費税を払っていないという扱いになり撮影単価として「11000円(税抜)」をカメラマンに支払い、「11000円」に対する消費税1100円を別で納付する必要性が出てきます。
経過措置では、令和8年10月1日までは80%を仕入控除できる「2割特例」があるので、カメラマンに支払った「11000円」のうち「1000円」は預かり消費税として扱われます。
ですのでこの場合、企業側は令和8年10月1日までは「1000円×80%=800円」は消費税納税している扱いになるため、以前として「1000円-800円=200円」の差額分は企業側の負担になってしまいます。
そのため、単価交渉で10000円から2%を目安に差し引いた「9800円(税抜)」が提示される可能性があるでしょう。
これなら、企業側はカメラマンに支払うギャラと納税する合計額が以前と同様になるというわけです。
企業側の事務処理のわずらわしさから10%値下げ交渉されるケースもあると思いますが、値下げ交渉する場合は上記のことを念頭に置いたうえで価格決定することをおすすめします。
くれぐれも、法外な値下げ交渉は”違法”になりますので、双方合意の上で行いましょう。
今後はフリーランス・個人事業主のカメラマンはどのような対応をすれば良い?
出典:unsplash
個人事業主カメラマンにとって頭の痛い話しばかりですが、それでは一体これからどのような対応を行っていけば良いのでしょうか。
①経過措置期間の3年間は現状維持する
前項で、「2割特例」の経過措置をご紹介しましたが、この期間は企業側への激変緩和措置であり、かつインボイス登録を促すための準備期間にもなります。
企業との取引が多いカメラマンの場合、この期間をどのように過ごすか悩ましいところ。
個人的なおすすめとしては、
・早々にインボイス登録すると納税額が急に増える
・企業側にも経過措置があることで取引量が急激に減るとは考えにくい
・カメラマンが少ない業種では人員確保が困難
・経過措置に応じて値下げ交渉できる
このことを踏まえると、いずれ全ての事業者にインボイス登録が義務化されるとしてもそれまでの期間は免税事業者でいることができます。
3年をおすすめする理由は、経過措置は令和11年10月1日まで続きますが、令和8年10月1日以降は仕入控除は「50%」まで低下していきます。
ここまで来ると発注側の企業の負担も増えますし、インボイス登録する個人事業主が今より増えているでしょうから、企業側も焦れる可能性がありますよね。
今までは目つぶってたけど、そろそろ登録しないと取引やめるよ…?!
こういったインボイスに対する慣れや対応の遅さを指摘する声も上がるかもしれません。
また、令和8年10月1日以降は仕入控除は「50%」まで低下するので、例えこれに合わせて「じゃあ、単価から5%値下げします!」と言ったところで、今後は自分がインボイス登録したのち「インボイス登録したので単価を戻して下さい!」とは言い出せない状況に…。
2%減までは我慢できたとしても毎回5%減ともなると仕事への意欲低下、売上悪化に繋がりかねないでしょう。
これまでは、当たり前に免税が許されていた立場からインボイス登録しないことで、「脱税している人」というレッテルを貼られかねないのでこのあたりは今後の動向も踏まえて慎重に考える必要があります。
②撮影単価を10%値上げしてインボイス制度登録する
これはある程度、実績や経歴がないカメラマンにはおすすめできませんが、免税事業者から課税事業者になることで年間売上から10%消費税を持っていかれるなら、そもそも単価を10%値上げすればトントンにすることができます。
すでに、飲食業や建築業など人手が足りず、免税事業者と取引しないと事業が維持できない業種は、値上げされることが想定されています。
事業者としては10%値上げできるにこしたことはありませんが、最終的にそのシワ寄せは一般消費者が負担することになります。
実質、私たちの増税でもあるわけね…
ただし、カメラマンの替えがきく撮影であれば安い方が選ばれる可能性は高くなるわけで、ブランディングやマーケティングできていないカメラマンにとってはどっちを選んでも地獄という可能性も。
いずれにしても熱狂的な顧客がいる方は、2023年10月からの値上げラッシュ中に、10%値上げすることを検討しておいた方が良いかもしれません。
③個人相手の撮影に切り替えてインボイス制度登録しない
「10月1日から開始予定のインボイス制度に反対する署名が50万筆を超え、日本のオンライン署名史上、最多記録となった。」
出典:Yahoo!ニュース
「インボイス制度を考えるフリーランスの会」が50万筆を超えるインボイス制度に反対する署名を政府に提出したことが、ニュースでも大きく取り上げられています。
また、「フリーランスらの市民グループ」も36万人分の反対署名を政府に提出しました。
いずれも、直前になって反対運動が大きくなっているわけですが、現実的にインボイスが中止になることは考えにくいでしょう。
すでに、導入に対して多大な予算を使っているわけですし、免税事業者は売上を大きく上げる以外に生き残る道はないため苦しくなるのは必至なのに対して、国の根幹を支えている大企業側には緩和措置を設けているわけですから。
今のところ、インボイス登録の義務化は謳われていませんが、個人相手の撮影と企業から受注する撮影が半々の場合、個人を相手としたカメラマンに切り替えるという方法があります。
個人撮影の依頼というのはほとんどの場合、経費の対象とならない娯楽としての記念撮影を依頼されるからです。
そのため、例え領収書を要求されてもこれまでの通り、「事業者登録番号」を記載しない領収書で良いわけですね。
あくまでも、義務化されるまでの話しにはなりますが、新しい分野を開拓することで売上が安定する可能性はあります。
いずれにしてもインボイス完全導入を見据えて動きましょう!
出典:unsplash
今回は”インボイス制度がフリー個人事業主のカメラマンに与える影響について”ご紹介してきました。
いずれにしても免れることが難しい制度ではあるため、近い将来はインボイス登録が義務化される可能性は大いにあるでしょう。
ただ、その中でインボイス未登録がゆえに取引量の減った人材を率先して確保し、少し安く人を集めるなど制度の”歪み”を逆手に取っている企業もいます。
また、対応できずに廃業する事業主が減るということは、働き手の少ない時代だけに生き残った個人事業主カメラマンは重宝される時代になると予想しています。
私たちができることは情報を集めて、世相を見ながら柔軟に対応していくことや、生き残るための思考を止めないことに活路があるような気がしています。
今回の記事が、インボイス対策でお悩みの方の参考になれば幸いです。
鹿児島写真部MUZEでは「ポートレート撮影体験」「フォトウォーク」「写真展」等のイベント開催を行っており、楽しい撮影を楽しもう!を合言葉に撮影技術の向上・モデルマッチング・地元観光応援を目指した企画を行っています。
前回、前々回と参加してなかった初心者さんでも気軽に参加することができるので、皆さんの部員応募やイベント参加をお待ちしています。
部員参加は下記、入部フォームから簡単にお申込みすることができます。たくさんのカメラ写真好きの皆様とお会いできることを楽しみにしております!
■無料・モデル入部ホーム■
カメラを始めてわずか半年でプロモデル、テレビ局タレントの撮影を担当する。ポートレート撮影や企業撮影のほかWEB広告クリエイターとして活動。2021年7月7日に鹿児島写真部MUZEを立ち上げ、クリエイターやアパレル・ハンドメイド作家・地元店舗とコラボ企画を行う。2022年『PASHA STYLE』認定クリエイター。鹿児島出身。
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